【リンゴの耐病性品種一覧】家庭での趣味栽培向けの覚書

リンゴの抵抗性品種一覧

リンゴを趣味で栽培してきました。これまで一番困ったのはカミキリムシの幼虫です。それさえなければ木も元気に育つため、有機リン系の殺虫剤であるベニカ水和剤(成分: クロチアニジン, 環境省の資料)を2年ほど使いました。おかげで葉がよく繁り、枝が欠けることがなくなりましたが、ある時その殺虫剤を散布した枝葉を素手で扱った時に手に痒みを感じました。手は洗ったものの、夜に寝ている時にも少々の痒みを感じたため、その農薬の神経に対する毒性の強さを身をもって経験し、1箱パッケージを使い切り、次の購入を検討していましたが、このような体験があり、長期的に少しずつ毒に触れ続けることで健康に及ぼす影響を考えると殺虫剤の使用をやめることに決めました。

この体験から、同じく私が2018年頃に花き用に買い求めた園芸用の殺菌剤についても調べてみると、日本では既に海外では使用禁止になっているベンレート(成分: ベノミル, 引用元 環境省の資料: ベノミル)という薬剤が家庭園芸用に販売されていて、私の手元にもあることがわかりました。私が持っている殺菌剤のオーソサイド(成分: キャプタン, 引用元 環境省の資料: キャプタン)もベンレート同様に毒性が強く、エムダイファー(成分: マンネブ, 引用元 環境省の資料: マンネブ)もきつい農薬で、家庭園芸用の殺菌剤の中では唯一トップジンM(成分: チオファネートメチル, 引用元 環境省の資料 : チオファネートメチル)だけが一番毒性が低いようでありました。

基準値から今列記した薬剤をきつい順に並べると、キャプタン(水質における基準値 2.6μg/L)、クロチアニジン(水質における基準値 2.8μg/L)、マンネブ(水質における基準値 18μg/L)、ベノミル(水質における基準値 35μg/L)、チオファネートメチル(水質における基準値 100μg/L)でした(環境省: 水産動植物の被害防止に係る農薬登録基準から引用しました)。

この毒性の評価書の資料が農水省ではなく環境省から出ていることも注目すべきかもしれません。

そして、私たちが散布した農薬は、地下水に混ざって地下水を汚染し、川や湖に流れ着いたり、一部は飲料水になる取水口にたどり着きます。

昔は当たり前のようにいた、なじみのある蛍やトンボやサワガニなどの水生昆虫が(私の住む町から)消滅して久しい今日、私はこれらの生物がいなくなったことを残念に思っていた時期がありました。確かに不快害虫や蛇なども減って住むには都合がよくなりましたが、この影響が人間にまで及んでいることを知れば、考え方も変わるのではないでしょうか。睾丸の縮小や精子の減少・変形、特定部位への発がんは農薬の毒性によるものであることは、試験結果を見れば、昨今の日本人の精子の数の情報と合わせれば何もラットにだけ起きているわけではないことがわかります。少子化との関連性はわかりませんが、人に農薬が影響していることは容易に想像できます。

そこまで深く事実を突き合せなくとも、家庭園芸での毒性の強い農薬の使用の是非は、世の中に対しては選挙での一票と同じで何の影響もありませんが、自分自身とその家族に対しては間違いなく影響してきます。後悔の無い園芸を楽しむためにも、害虫に対する正攻法での戦いに直面することや、病気に冒される植物の世話は命について思索を深める経験となることでしょう。

趣味栽培における昆虫との最低限の戦いであるテデトールは、環境に対しあまり害を及ぼしません。また、病害虫にやられて悲しいほどの貧産も、自らの欲深さへの戒めとなり、本来なら我々人間は飢えや病気で人口が少ないのが自然状態で、太って明日の食への心配が無いのが農薬のおかげであることに気づくでしょう。

そこまで考えなくとも、たかが趣味の家庭菜園ですから、苗木などは早く枯れてくれたほうが苗木屋さんも、農家さんも儲かりますので、小さな畑や庭で毒性の強い農薬をやめたくらいで誰にも迷惑などかかりません。お隣はお隣で、勝手に農薬を使ってますから、害虫も隣の田んぼや畑に行けばイチコロですから関係ありません。

そういうわけで、今回はリンゴの抵抗性品種について調べ、検討してみることにしました。
 
リンゴの耐病性品種一覧1
品種名 収穫時期 抵抗性 風味 発表・登録年 メモ 文献番号
さんさ 早生 斑点落葉病にやや強
黒星病に強
うどんこ病にやや抵抗性
すす斑病に弱
すす点病にやや敏感
炭疽病に少し罹患
- 1988年登録 ガラ×アカネ。すす斑病にとても弱いと思われます。 1,3
紅玉 中生 斑点落葉病に強酸味強 甘味中 明治時代 - 1
彩香(あおり9) 早生 黒星病に強
斑点落葉病に強
うどんこ病に強
炭疽病にとても弱
すす斑病に弱
すす点病に強
生食・加工兼用 2001年登録 あかね×王林。炭疽病を防除する必要があると思われます。うどんこ病にやや弱いです。日本の品種の中では耐病性にすぐれます。 3
あおり25 晩生 黒星病に強
斑点落葉病に強
うどんこ病に弱
すす斑病に弱
すす点病にやや弱
酸味やや高 甘味中 密無小 果肉硬 2013年登録 メロー×リバティ。冷蔵貯蔵性かなり長。うどんこ病に弱いという欠点があります。 2,3
放育印度 やや赤 - 斑点落葉病に強 甘味多く酸味少ない 2007年登録 印度にガンマ線を照射して作った突然変異の品種。耐病性はふじと同様。自己結実性2%。花粉提供樹にはふじ、ゴールデンデリシャスがよい。 4
なまえ いろ 収穫時期 抵抗性 風味 発表年 メモ 文献番号

参考文献

  1. リンゴにおける病害抵抗性育種(2003年)http://www.jppa.or.jp/shuppan/images-txt/2003/2003_0609.pdf
  2. 農研機構 黒星病真性抵抗性リンゴ新品種「あおり25」http://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H24/kaju/H24kaju001.html
  3. 耐病性リンゴ品種における散布回数を削減した黒星病及び斑点落葉病防除体系の評価(2016年)http://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/to-noken/DB/DATA/069/069-069.pdf

レポート

2019年の時点では「さんさ」「紅玉」「あおり25」がいくつかの病気に対する抵抗性のある試験結果報告されてはいるものの、他の新品種では目立って耐病性のあるリンゴは見当たりませんでした。日本ではリンゴの耐病性品種の育種は戦後からほぼ行われてこなかったようです。次回のレポートではアメリカの育種の状況を報告したいと思います。2019年5月11日。

リンゴ海外の病気の抵抗性評価

次に、アメリカ等におけるリンゴの耐病性評価について。抵抗性は強い順から抵抗性強、抵抗性、抵抗性中、弱、非常に弱いと書きました。

リンゴの耐病性品種一覧2
品種名 黒星病等(Venturia inaequalis) 火傷病(Erwinia amylovora) 赤星病(Gymnosporangium spp) うどんこ病(ウドンコカビ目) メモ 文献番号
グラニースミス 弱い 非常に弱い 抵抗性 非常に弱い オーストラリアの品種。 1
あかね 抵抗性 抵抗性中 抵抗性中 抵抗性 - 1
フジ 弱い 非常に弱い 抵抗性中~非常に弱い 抵抗性 - 1
Freedom 非常に抵抗性 非常に抵抗性 抵抗性 抵抗性 日本でも保有されているアメリカの品種。 ニューヨーク果物試験協同組合連合により1983年リリース。 1,2
Liberty 非常に抵抗性 抵抗性 非常に抵抗性 抵抗性 日本でも保有されているアメリカの品種。1978年ニューヨーク農業試験場がリリース。耐病性すぐれる。あおり25にもリバティーのVf遺伝子が含まれている。 1
Novamac 非常に抵抗性 非常に抵抗性 非常に抵抗性 非常に抵抗性 カナダの品種。1978年Agriculture Canada, Kentville, NSがリリース。 1
William’s Pride 非常に抵抗性 抵抗性 非常に抵抗性 抵抗性 アメリカの品種。1988年にCooperative introductions from the State Universities in Purdue, Rutgers and Illinoisがリリース。 1
なまえ いろ 黒星病 火傷病 赤星病 うどんこ病 メモ 文献番号

ちなみに、カナダの家庭果樹ではHoneycrisp Appleあたりが人気があるようです。つがる、さんさ、紅玉、ガラは斑点落葉病に対する抵抗性があります(3)。

参考文献

  1. Disease Susceptibility of Common Apple Cultivars: https://www.extension.purdue.edu/extmedia/BP/BP-132-W.pdf
  2. 'FREEDOM' A New Disease-Resistant Apple: https://ecommons.cornell.edu/bitstream/handle/1813/5117/FLS-103.pdf;jsessionid=A1D642A727A0B07A221C4A71A1FDC0FE?sequence=1
  3. リンゴの斑点落葉病と黒星病に対する複合抵抗性育種に有用な育種母本
  4. 農研機構 放育印度 http://www.naro.affrc.go.jp/collab/breed/0400/0413/070802.html

リンゴの病気

次にリンゴの病気について述べたいと思います。

黒星病

リンゴの葉や果実に真っ黒な斑点を生じる病気です。Venturia inaequalis菌が主な原因菌とされています。薬剤の耐性菌が生じています。

斑点落葉病

主にAlternaria属菌が主な原因菌であると考えられます。リンゴの葉や果実に黒い斑点が生じ、生産に深刻な影響を与えます。発病した葉に輪状の黒い斑点が生じ、内側は茶色く枯れています。

赤星病

Gymnosporangium yamadaeが原因菌とされ、ナシ同様に赤茶色の斑点を葉や果実に生じます。症状がすすむと触手のようなもの(状突起)が出て来ます。5月頃から症状が出始め、7月8月に胞子が放出されます。千葉県と埼玉県は赤星病防止条例があり、予防や防除に努めるように推奨されています。

火傷病

Erwinia amylovoraが原因菌とされています。アメリカ合衆国東部由来の菌で、韓国にまで感染が広がりました。日本ではまだ発病がないとされています。

更新履歴

  • 2019年5月11日: ページを初公開しました。

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