【日本スモモの品種と受粉相性に関わるS遺伝子型の一覧】自家不和合の仕組みを詳しく解説

スモモの品種と遺伝子型による受粉相性についての文献研究

序文

数年前の2015年~2016年にかけて、私はスモモの遺伝子型の論文を読み、スモモの受粉相性を予測しました。2017年~2018年は多忙で栽培どころではなかったのですが、おかげで数個の初結実を得て、2019年になり、せっかくなので、もっと詳しく学んでみたいと思い、今回は新しくちょっとした論文もどきを書くことに決めました。私自身、スモモの品種について詳しくなかったため、花が咲いても実がならない現象が数年間続きました。ある方がブログ(確か2013年以前に述べられたもの)で「太陽にはハニーローザがハリウッドよりも受粉にいい」と述べられていたことがきっかけに、遺伝子と受粉相性について興味を持つようになりました。当時(2014年より前)の常識では農業の専門家らしき人が「スモモの受粉樹にはハリウッドかバイオチェリーがあればいい」と日本中の農業の専門家の誰もかれもが本やネットで言ってましたので「この人たちは、本当にスモモを栽培したことあるの?佐村河内やショーンKと何が違うのだろうか」と首をかしげてしまいます。すみません。言い過ぎました。

ここでは、趣味で楽しくスモモを栽培しているみなさんと楽しみを分かち合いたいと思い新たに自家不和合の仕組みとS遺伝子について学ぶことにしました。

一応パブリックかつフランクな文書になっておりますが、プロの方や本職の人は「たかが素人」の文章を参考にしたりしないでくださいね。なぜなら教授様が中身を審査してませんから!でも、もしもお役に立てたのであれば、公式文書中であってもこのページの名前とURL、作者名や発表年(2019年~)をしっかり記述してください。このページはボランティアという尊い他者への奉仕でやっているのではありません。自分の利益(いろんな欲望)のためにやっています。そもそも無私無欲でこの世で物を書く人・他人のために働く人なんて絶対いません。対面だったらこんなこと絶対言いませんけど。

つまり、わかってほしいのです。どれだけの頭脳と時間を使ったか。この行まで書くのに5時間はかかってます(※下準備もしているので脳みそへとへとです)。それに対し、ここまでして誰かに5千円もらえるわけでもないことを知って欲しいのです(ほんとうに意味がわからない人のために、ここに至るまで英文の論文を読んだりして日本の研究と比較して一から勉強していましたし、それ以前の過程も含めると、すごく日数年数がかかっていますので所要時間を自給に換算してもボランティア同然です。

正直なところをいいますと、このページはスモモ栽培において価値のあることを中学生レベルの生物の教養がある人にもわかるようにこれから述べていくつもりです。営利サイトと違うところは、他人の成果物を単に引っ張って来るのではなく、考察をしながらやっているという過程そのものも示していることです。その違いについてはここまでお読みの皆さんなら十分理解できていることと思います。

筆者にご褒美を贈る方法は、ボーンと奮発してほしいと思うものの、残念ながら手段がありません。誰にも喜ばれることなく、無報酬でやってます。

この欲深いあいさつ文(といっても専門家やプロほど欲張りではない)を書いてる時点でスモモを育てて7年目です!まだまだへっぽこです。

序文執筆: 2019年5月16日


目次


1.植物の遺伝子

ここでは、予備知識として遺伝子について学びながら説明しています。筆者も知識が中学生レベルのところから勉強をはじめていますので、きっとみなさんにも理解できると思います。

1.1. メンデルの法則のおさらい

日本人全員が中学校で習って知っているお話として、メンデルの法則があります。豆の種子の表面が滑らかな性質をA(優勢のA)、シワがある性質を仮に小文字のb(劣勢のb)とすると、AAとAbの遺伝子型を持っている種子は表面が滑らかで、bbの遺伝子型を持っている種子はシワがあるという組み合わせになります。AAの種子とbbの種子を交配させると、AA、Ab、Ab、bbの組み合わせの種子ができ、AAとAAを掛け合わせるとAAの遺伝子型を持った種子しかできないということです。

メンデルの法則のおさらい
メンデルの法則のおさらい

上図は単純すぎてリアルではありませんが、豆の近親交配ではこのようなシワについての形質の遺伝パターンが図で表せます。シワが無い豆が優勢になると、確率的にシワが無い豆が多くできる「だろう」ということです。しかし、シワのある豆が優勢になる可能性だって無いわけではありませんので、犬が次第にひとなつっこくなった歴史などを見ると、優勢の法則は永久的なものではないと私は思います。

これらの種子のシワについての、AA(シワ無し)、Ab(シワ無し)、bb(シワ)という型を遺伝子型(Genotypes=ジェノタイプス)と英語でいいます。形質(シワの有無)が実際に現れた型を表現型といい、英語でPhenotypes(フェノタイプス)と書きます。

ここで、AAとbbは同じ遺伝子が接合されているのでホモ接合型(Homozygous)、Abは異なる遺伝子が結合しているのでヘテロ接合型(Heterozygous)といいます。
例にした豆の種子の場合、遺伝子型の中にはA(シワなし)とb(シワ)という対立遺伝子に分けられます。犬の場合は「人なつっこい(フレンドリー)」と「人を警戒する(狼だった頃の野生型遺伝子)」という対立遺伝子があるかもしれません。

対立遺伝子とは遺伝情報(ゲノム)の中にある遺伝座(ある場所)における遺伝子型で対になっている遺伝子のことです。言葉で言ってもはじめはわからないと思いますが、このページの内容がわかる頃には理解できると思います。

2個(※二倍体の場合)の対立遺伝子の組み合わせのことを遺伝子型(genotype)といいます。


1.2. S遺伝子型

そもそも、S遺伝子型とは何か?というところから理解をしないとわかりません。意味がわからなかったので、首をかしげながらずいぶん探したりして半日考えましたがやっぱりわからずじまい・・・(すみません)。その後、調べながら考えましたがS遺伝子とは「自家不和合性遺伝子」のことでした。

S遺伝子型の「S」は何の略か?

S遺伝子型のSはS遺伝子が「Sterility Locus(不稔性遺伝子座)」の略であることが(参考: mixiコミュニティ S-locusについて 2008年)ここのページを読んでわかった気になりましたが、納得はいきませんでしたので、さらに調べておそらくは本当であることがわかりました。「おそらく」と書いたのはSがそのままSterilityでありSterility Locusという専門用語とは言い切れないからです。英語では別の言葉(例えば受粉の遺伝子座)で表現されることもありました。S遺伝子座はSハプロタイプとも言われるそうですが、厳密にはまったく別の意味なのですが、日本人が使っている場合はほぼ同じ意味あいであると思います。

英語を母語とする学者は受粉に関する遺伝子型のことをSI genotypes(SIG)などと書いていて、それを日本語に訳すと「自家不和合性遺伝子型」となります。ですから仮に「S」が「Self-(In)Compatibilly」を意味するのであれば、英語のルールから正しい日本語で表記するとSI遺伝子型もしくはSIC遺伝子型、SC遺伝子型と区別して定義したほがわかりやすい気がします。

いろいろ想像を巡らせましたが、S遺伝子型は自家不和合性遺伝子型(と場合により自家和合性遺伝子型の両方を含む意味)であると想像できます。

果樹の商業栽培においてS遺伝子型が持っている情報は交配や選抜のための花粉提供樹の決定に重要であることは間違いありません。

ここではSを「Self-Incompatibilly(自家不和合性)」、S遺伝子型を「Self-Incompatibilly Genotypes(自家不和合性遺伝子型)」と言いたかったものと推定して説明したいと思います。


論文を読んでいて気付いたのですが、英語話者のハカセは「専門用語(ターム)」などというものを絶対的な記号で表していません。それに対し、日本の研究者は絶対的な物であり他の記号は許さないという風潮が論文の中に多く見られました。これは一神教の信仰から来た文化と、上司への絶対服従の文化の違いだと思うのですが、日本の論文が「コレなのだ!」と日本人しか使わない用語を英語で書きまくってるのを見て読んでてちょっと面白いなと思いました。

1.3. 遺伝子座

まずは遺伝子座とは何か。遺伝子座(Locus, 複数形でLoci)は、wikipediaによると「染色体やゲノムにおける遺伝子の位置のこと」と定義されています。何のことかわかりませんので写真でもと思って調べてみると写真がありません。実物は撮影できないほど小さなものみたいです。私なりに自分の言葉で述べさせてもらいますと、染色体のらせん状の紐の中に遺伝子とDNAなどの遺伝情報が入ってます。遺伝子座とは、染色体の中の遺伝子がある位置のことです。住所みたいなものです。

S遺伝子座

S遺伝子座とは、自家不和合性(不稔性)の形質(具体的にはタンパク質の生産など)に関する遺伝情報を扱っている場所のことです。日本語で書けば自家不和合性遺伝子座ということになると思います。

S遺伝子座は葯と柱頭の細胞で発現します(その場所でS遺伝子座が機能する、花粉が来たらスイッチオンになって動き出すという意味だと私は解釈しています)。

1.4. ハプロタイプ

ハプロタイプ(Haploid Genotype)とは、単一の親から受け継がれる単一遺伝子の型のことです。ハプロタイプを知るには、まず対立遺伝子と遺伝型について知らなければいけません。

1.4.1. 対立遺伝子

対立遺伝子(Allele)とは、対立形質を規定する個々の遺伝子のことです。二倍体の生物では遺伝子座に2つの対立遺伝子を有します。例えば、「種子表面にシワありとシワなし、シワありとシワあり、シワなしとシワなし」という情報です。わかりにくいので、下図で説明しています。

ここで先ほど説明したように「メンデルの法則」で解説すると、AAとbbは単一の遺伝子を引き継ぐのでホモ接合型といい、Abはヘテロ接合型といいます。「A」と「b」は種子のシワの有無についての対立遺伝子であり、「AA」と「Ab」「bb」がそれぞれ遺伝子型です。ハプロタイプというのは、単に片親から受け継いだ一染色体上の遺伝子の組み合わせの型のことを意味します。

1.4.2. 遺伝子型

遺伝子型とは、もう一度おさらいしますが、対になっている染色体の特定の遺伝子の型です。例えば血液型がAO型の人はAとOの組み合わせの遺伝型であるということです。父母からもらったAとOの対立遺伝子の組み合わせのことを遺伝型といい、A型であると言うのは表現型といいます。

1.4.3. ハプロタイプ

ハプロタイプとは、例えば2の染色体を有する生物の場合、1本ずつの、遺伝子の配列の型をハプロタイプといいます。わかりやすくいえば、父から貰った遺伝子の配列、母から貰った遺伝子の配列の型はそれぞれ父の遺伝子のハプロタイプ、母の遺伝子のハプロタイプといいます。例えば日本人のハプロタイプの調査にY染色体のハプロタイプが使われます。Yハプロタイプというのは父から受け継いだ遺伝子、すなわち父系の先祖から貰った遺伝子のハプロタイプです。

余談 日本人のハプログループ

ハプロタイプをグループ(集団)にして分類したのがY染色体ハプログループです。日本固有のY染色体ハプログループに多く見られるD1aはチベット人に多く見られるハプログループD2aと近縁で、アイヌ人(75%)と沖縄人(55%)に多く見られ、本州でも30%程度の頻度で見られます。この分類ではコンゴイド(アフリカの中央ベルト一体に見られるグループ)と祖先が近いといえます。O2は日本人(15%~20%)と中国人に共通して見られ、O1b2は日本人(24%~3x%)と朝鮮人(19%)に見られてアイヌ人から検出されないことから弥生人とも関連があると考えられています。日本人に5%の頻度でみられるC1a1はそれとはまったくの別系統のグループでクロマニョン人と近い系統です。O2のグループも15%~20%の頻度で見られます。割合だけでは見たら、本州の日本人は先住民と大陸から来た古代中国・朝鮮人の混血であると思われ、Oの系統により稲作と王朝文明がもたらされ、戦を繰り返しながらD2aのグループと混血をしていったと学者なら一度は考えるのかもしれません。

1.4.4. Sハプロタイプ

Sハプロタイプは自家不和合性(自家不稔性)についてのハプロタイプのことです。同じSハプロタイプ同士が受粉を行うと、基本的に不和合となります。

Sハプロタイプの模式図 SFB/SLG/SRKに関わる遺伝子
Sハプロタイプの模式図 SLG/SFB/SRK等 受粉に関わる遺伝子

ここでちょっと読者の腰を折らせてください。

数日間勉強しただけで申し訳ないですが、私の理解を図で表してみました。あくまで筆者がこうだと思った形を図にしただけですので、教授様のお墨付きがありませんので、ほんとうに真に受けないでください・・・。

と書くと、信憑性がなくなってちょうどいいです。

信じこまれて私のような素人にあれこれ尋ねられても困りますので、我に返ってもらいました。


1.5. S遺伝子型

これまで説明したことを総合するとS遺伝子型が「自家不和合性遺伝子型」と日本語で訳せることがわかります。念のために誤解をしないように書いておきますと、S遺伝子型というのは、狭義の遺伝子型の意味ではなく、ハプロタイプの組み合わせのことを日本ではS遺伝子型と呼んでいるように思います。S遺伝子というのは、自家不和合に関わる複数遺伝子のことをS遺伝子と呼んでおり、S遺伝子型というのも複数の遺伝子からなる型のことだと思います。近頃はM遺伝子なども見つかっており、どこまでがS遺伝子であるかは研究者によって異なるはずです。

1.5.1 遺伝子型(Genotype)とハプロタイプ(Haploid Genotype)は何が違うのか?

繰り返し説明しましたが、遺伝子型は対になっている、1対の染色体のある遺伝子についての対立遺伝子の組み合わせの型で、ハプロタイプは片親内のそれぞれの遺伝子の組み合わせの型のことです。

また「S遺伝子型とSハプロタイプは何が違うのか?」という疑問も生じて来ると思います。たいていの場合、S遺伝子型は両親からの自家不和合性に関する遺伝情報の配列(型)、ハプロタイプは片親からの自家不和合性に関する遺伝情報の配列(型)であるといえます。

自家不和合性遺伝子型の場合、例を考えると、S1S2という遺伝子型はS1という片親の対立遺伝子とS2というもう一方の親の対立遺伝子を有していることになります。ですから、S1S2遺伝子型という場合には、複数の遺伝子の組み合わせであるといえます。

  • ハプロタイプ・・・片方の親から受け継いだ複数遺伝子の組み合わせ
  • 遺伝子型・・・両親から受け継いだ対の遺伝子の組み合わせ

1.5.2. S遺伝子の模式図

これまで勉強してきたことを図にすると以下のとおりになるように思います。しかし筆者は専門家ではないので、他の不和合に関連する未発見の遺伝子の存在については「あるもの」として図にしています。

S遺伝子 SLF R-Nase 植物の不和合性
S遺伝子 SLF R-Nase 植物の不和合性

1.6. 受粉の法則~自家不和合性

たいていの植物は同じ遺伝子型の相手とは受粉しません。不和合に関わる遺伝子はS遺伝子座が話の焦点となっていますがM遺伝子座も不和合に関係しています(文献2)。M遺伝子座の遺伝子は2014年の時点でまだ発見されていません。また、不和合は生殖にかかわる器官に何らかの問題が起きている場合もあります。

たいていの場合、仮に2倍体の作物の自家不和合性遺伝子型(S遺伝子型)がS1S2(S1とS2遺伝子を持っている)とすると花粉が同じS1S2遺伝子型であれば、自家受粉しない品種の場合は自家不和合(受粉しません)となります。S1S2が受粉する条件は、少なくとも自己以外の遺伝子型の花粉(例: S3S4)が必要となります。

植物の受粉の仕組み S-RNase SLF

拙いながら、受粉の模式図を作ってみました。もちろん、受粉はこれだけがすべてではなく、ここでは説明していない事柄も起きています。

花粉が雌蕊の柱頭に接触すると、花粉から花粉管が伸びて胚嚢にある卵細胞で受精します。このときS遺伝子型の組み合わせにより花粉管が伸びていくか、阻害される物質が出て受粉ができないかが変わります。合性がよければ花粉側のSLFというたんぱく質は雌蕊側のS-RNaseを分解しながら伸びて行きます。人によってはそれを毒を中和すると説明していますが、そんな野暮なことは言わない人もいます。俗っぽい言葉で決めつけられる現象ではないからです。

なぜ自家不和合なのかは、この世界で生き延びるためになるべく多様な遺伝子を遺すためであると思います。同じ遺伝子ばかりになると、微生物や害虫にかかると全滅になり得るからです。


1.7. まとめ

これまでのことを図にすると次のようになります。遺伝子型(genotype)の中にある赤、青、黄、紫の四角は対立遺伝子(allele)です。そして対立遺伝子の位置が遺伝子座です。ハプロタイプはひとつの(片親から受け継いだ)染色体の中にある対立遺伝子の型のことです。ディプロタイプとは、ハプロタイプの組み合わせのことです。

遺伝子型とハプロタイプの模式図

遺伝子型、ハプロタイプ、遺伝子座、対立遺伝子を図にしました。2日で勉強した割に、割れながらいい線いってると思います。長いですが、もう少し説明させてください。この項目は自家不和合について関係のない解説なので読み飛ばしていただいて構いません。

本来なら先にお見せすべき図ですが、最後に呈示しました。

仮に下図のX遺伝子型が豆の種子のシワに関する情報であると仮定してお話することも可能です。豆の種子の表面の皮の形質を礼にして説明すると、下の図で対立遺伝子Cはシワ無しの遺伝情報、対立遺伝子Gはシワありの遺伝情報が含まれていると説明できます。実際はそのような単純な仕組みではないと思います。ハプロタイプCFと仮に書きましたのは、豆のシワの有無の遺伝情報と、Yという機能に関わる遺伝子の情報の(プロフェッショナルっぽく言うとY因子の遺伝子座の対立遺伝子の)、同一ハプロイド内の組み合わせ(配列)であると言えます。ディプロイドタイプCF(仮の話)は、ハプロイド1と2のハプロタイプの組み合わせであるといえます。

遺伝子型 ハプロイド ハプロイドタイプ 対立遺伝子 遺伝子座のイメージ図
遺伝子型のイメージ図

あくまで素人が作った模式図ですので・・・参考にしないでください。これは、私が想像して理解している架空の図面であって公式図ではありません!!!

ここまで述べたような、前知識が無いと次に述べることが理解できないと思います。私もまったく無知識なところから勉強をはじめたので、遺伝子型について理解するのに2日かかりました。

ここまで読んだら「S1S2」という記号が何を意味しているかもうわかりますね。S1という片親から受け継いだ遺伝子と、S2という片親から受け継いだ遺伝子を意味しているのです。合わせてS1S2遺伝子型です!

ここまで第一章を書き終えたのが、2019年の5月21日です。


2. 日本スモモのS遺伝子型

さて、ここからが本番です。スモモの自家不和合性遺伝子型について本題に入ります。そのためには、まずはいくつかの遺伝情報を引用させてください。前情報として日本スモモは二倍体です。つまり2本の染色体が1対あるということです。日本スモモはほとんどの場合自家不和合といって自分自身の花粉では受粉せず、他から花粉を受けとる必要があります。

ここからしばらくは末尾に掲載した文献リスト1の「DNA-based S-genotyping of Japanese Plum and Pluot Cultivars to Clarify Incompatibility Relationships(2007)」から引用させてもらいます。

日本スモモの受粉に関係する対立遺伝子は2007年の時点で14個が特定されS遺伝子と呼ばれています。日本スモモのS遺伝子はSa~SnというアルファベットとS1、S3、S4、S5、S6の数字のコードが割り振られています。

先ほども説明したようにSa~Sn、S1、S3~S6までのそれぞれの記号と番号は、対立遺伝子(allele)の組み合わせ(Sハプロタイプ)を番号にしたものと思われます。

S3対立遺伝子はSkと和合し、S4はScと、S5はSeと、S6はSf対立遺伝子と和合します。

S5対立遺伝子自家和合性といって自家受粉することができる遺伝子です。

ここでちょっと疑問が湧いてきます。対立遺伝子のS3がいつでも表現型として優勢に現れるとは限らないからです。私にはそこらへんの疑問はどうすることもできませんので、放っておきます。

‘Black Amber’, ‘October Sun’, ‘TC Sun’, and ‘Super Giant’ はSbSc遺伝子型です。これらのSbSc遺伝子型を持つグループは広く自家不和合性です。

ScShの遺伝子型を持つグループ、‘Green Sun’ and ‘Queen Rosa’, などは共通の花粉提供樹(ドナー)として(アメリカでは)知られています。

DNAの抽出方法はDNeasy Plant Mini Kit (Qiagen, Hilden, Germany)が使われました。DNAの収集に分光光度計GeneQuant II RNA/DNA Calculator (Pharmacia Biotech., Budapest, Hungary)が使われました。Sポリメラーゼの分析方法にEM-PC2consFD および EM-PC3consRDが用いられました。

この論文では49品種の遺伝子型について遺伝子を抽出して研究しています。

この研究ではSbSc遺伝子型であるスモモが自家不和合性であることが確かめられました。そして、次の品種は広く、花粉提供樹として使えることがわかりました。

自家和合性品種(広く花粉提供樹として使える)

  • Beauty(ビューティー)
  • Black Diamond(ブラックダイヤモンド)
  • Flavor King(フレーバーキング)
  • Late Santa Rosa(レイトサンタローザ)
  • Royal-Zee(ロイヤルティージー)
  • Santa Rosa(サンタローザ)
  • Rio(リオ)
  • Simka(シムカ)
  • Sweet Autumn (スイートオータム)

ユニークなS遺伝子型の品種 (広く花粉提供樹として使える)

花粉提供樹といっても万能であるはずがありませんので、だいたいの花粉親として使えるという意味です。

  • Bonnie(ボニー)
  • Botan(ボタン)
  • Combination(コンビネーション)
  • Formosa(フォーモサ)
  • Friar(フライア)
  • Harypickstone(ハリピックストン)
  • Honey Rosa(ハニーローザ)
  • Lantz(ランツ)
  • Oishiwasesumomo(大石早生)
  • Shiro(シロ)
  • Starkgold(スタークゴールド)
  • Summer Queen(サマークイーン)
  • Tecumseh(テクムセア)
  • Terada(テラダ)
  • White plum(ホワイトプラム)
  • Wickson (ウィスコンシン)

スモモのS遺伝子型

一気に列挙していきます。興味が無いでしょうから読み飛ばしても構いません。ここにメモっておかないと私が困るので羅列しました。

  • Se-z(自家和合性)
  • SbSe(自家和合性)
  • ScSe(自家和合性)
  • ScSe-z(自家和合性)
  • SaSe(自家和合性)
  • SeSk(自家和合性)
  • SaSb
  • SbSc(自家不和合性)
  • SbSf
  • SbSh
  • SbSi
  • SfSh
  • ScSh
  • SgSh SaSm SgSl SbSd ShSk SbSk SbSg SbSl ScSd Sf-z SgSk ScSf SfSj SaSf SfSg SkSf-z (ユニークグループといって1品種につき1つの固有のS遺伝子型を持っているタイプです。)

文献番号1の論文の引用は一旦ここまでです。

いったん休憩させてください。

これから考える作業が大変なので、今日(2019年5月21日)はここまでにしたいと思います。

といいつつも、前回(2019年5月22日)の執筆から1年以上放置してしまい、すっかり頭が空っぽに戻ってしまいました。何の益にもならないどころかやればやるほど損になるので考察ができるほど暇がありませんでした。こうして多くの学者さんたちが「誰が貧しくなってまでして研究して頭を使ってやっても、他人が努力せずして金儲けできるようなことを発見してやらなければいけないのか」と研究をおやめになっていく様子が身に染みてわかりました(;'∀')

参考文献

  1. DNA-based S-genotyping of Japanese Plum and Pluot Cultivars to Clarify Incompatibility Relationships(2007)
  2. 植物遺伝育種学研究室での植物生殖機構の分子遺伝学的研究 http://www.agri.tohoku.ac.jp/pbreed/previous/molecular.html

更新履歴

  • 2019年5月21日 自家不和合性の仕組みを解説し終えました。
  • 2019年5月16日 ページを作成しました。

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